「こんな日もあるんですね…」
思わず口をついて出た




二月とは思えない陽気、たまたま湧いて出た平日の休日

去年から一年ほど続いているこの騒ぎで深夜営業をやめ、昼の13時から開けているビニールカーテンの店を覗くと先客は誰もいなかった



「うん、まぁ平日の昼間なんて誰も来ないよね」
手際良くいつもの完璧な生ビールが置かれる

マスクのせいで二月でも汗ばんでいた口元に、キンキンに冷えたビールは文字通り甘露だ




「いや、いつもお客たくさんいたし、去年の四月もお昼やってたけどお客さん来てたから」


「あー、去年の四月の時はみんなよくわからず『自宅待機』みたいな感じだったじゃない?、今回は飲食業だけだからねぇ」
まさに苦笑い、といった顔で店主は返す


続ける言葉が見つからない僕に店主は続ける
「でもまぁ今回は協力金が多めに出るみたいで生活は出来るんだけどね。おれらより酒屋さんとか業務用のお肉屋さんとか八百屋さんとかの方がよっぽど大変だよ」




「なるほどー…、いつまでですかねぇ」
あっ、


「どうだろうね、もうすぐだといいよね笑」

馬鹿な質問をした、とすぐに後悔した





空気を変えたい意味もあってデリのメニューを開く
「あ、なんか今のオススメあります?」

「うーん、嫌いなものなんも無い?」

「無いです、あっホヤはダメかも笑」

「そんなのないよ笑、オッケー」


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●グリンピースとレタスのクリーム煮


なんとも地味な料理を、と最初は訝しんだのだが、これが実に、美味い
グリンピースの青さにクタクタに炊かれたレタスの甘味、それをクリームソースの優しい旨味とブラックペッパーの程よい刺激のバランスが良く、一口また一口とスプーンを進める
世のグリンピース嫌いはみなこの料理を最初に食べ始めればよかったのでは、とまで思った




「これ言い方アレですけど、グリンピースなのにめちゃくちゃ美味しいですね、それになんかグリンピースって春っぽくて良いっすね」

「うん、美味いよね、それ。家でグリンピースってあんま食べないもんね」

「あ、確かに」

「さっきの話じゃないけどさ、ホヤとかだって家で食べないじゃない」


あ、そうか
そういうことか…







「みんなさ、みんな、本当色々大変だよね」

「そうですね、本当に」

「しかし、今日すごいあったかいよね」

「はい、春ももうすぐそこですね」

「うん、春になったらなにか変わるのかねぇ」



また苦笑いでマスターはつぶやく